アーカイブ | 2021年12月6日

『ザ!世界仰天ニュース』批判への批判 - 阪南中央病院・佐藤健二医師 

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ご覧になった方も多いかと思いますが、今年9月、

日本テレビ世界仰天ニュース

脱ステロイドで皮膚炎から脱した患者さんのトピックが放送されました。

 

放送直後から医師会など色々な団体や、

非ステロイド治療を認めない患者さんの批判がTV局に殺到し、

SNSでも大騒ぎになっていました。

(もちろん、非ステロイドに好意的な意見もたくさんありましたが、

逆にそちら側の投稿には、ステロイド派を非難するものは

ほとんど見受けられませんでした。)

 

その批判について、非ステロイド治療・『脱ステ・脱保湿』で有名な

阪南中央病院佐藤健二先生が発言されたのを

このブログでも以前、紹介させて戴きました。

(ついでに徳子節も混入する・・・という大胆な企画でしたね。)(笑)

ステロイド副作用を報じたTV番組への批判について - 佐藤健二先生のお考え

ステロイド副作用を報じたTV番組への批判について・佐藤健二先生のお考え

 

今回、新たに詳細版として佐藤先生がSNSで発表されています。

ステロイドを止めて脱保湿をしたことで、劇的に炎症が引いた経験を持つ私は、

深く頷いて読ませて戴きました。

お子さんにも読みやすいように、カラー版で編集してお届けします。

 

   *********************

 

◆  世界仰天ニュース批判への批判(詳細版)◆
 
          (阪南中央病院皮膚科医師・佐藤健二先生のSNSのご投稿より)
 
2021年9月7日に日本テレビで放送された
ザ!世界仰天ニュース:ひどい肌荒れがまさかの方法で回復は、
偏見なくこのニュースをみれば、
「ヘェーそう、ステロイド外用薬を止めてもきれいになることもあるのだね
良かったね。」
で済むように思われます。
ところが日本皮膚科学会などは、
「このような番組が放送され、医療の混乱を来すことは、
看過することができません。」
として、「厳重に抗議した」と声明を発表しています。
皮疹が良くなったことを報道することに憤りを感じることは
不思議なので、抗議文の正当性を検討してみました。
 
 
 
第1段落について
 
ニュースでは、「ステロイドは本来体内で作られるが、
ステロイド薬の使い過ぎにより体内でステロイドが作られなくなった。」
「再び体内で作られるようにするには、ステロイド薬を断つしかない」
といっているが、これに対して学会は「科学的に明らかに根拠のない内容がある」、
と述べています。
 
しかし、2018年に出されたアトピー性皮膚炎診療ガイドライン
(日本皮膚科学会雑誌2018;128:2431-2502:以下2018ガイドライン)には、
2458頁に強いステロイド外用薬の外用で一部の症例で
副腎機能抑制が生じたとする報告があるとの記述があります。
 
この文章を言い換えれば、ステロイド薬の
使いすぎでステロイドが作られにくく
なることがあることを言っており、
ステロイドが作られるようになるには
ステロイドを減量あるいは中止する必要がある
ということも意味します。
 
テレビで放映された顔面への外用では副腎不全の起る確率は低いと思います。
だからといってニュースが全面的に間違ったことをいったとは言えません。
 
この少しの不正確さをもってニュース全体に問題があるような表現は、
ステロイドを中止して皮疹が良くなった重要な事実を無視する
科学者として不適切な行動だと思います。
 
2009ガイドラインにはストロングクラス(リンデロンV)の単純塗布では、
20gの外用が副腎機能抑制を生じうる一日外用量であると述べられています。
 
ちなみに、2018ガイドラインが参考として記述している
FTU(finger tip unit)外用療法では、
紅皮症の人(全身に発赤のある状態)への外用量は20.25gとなり、
副腎機能抑制を起こす危険領域の治療をすることを勧めていることになります。
このことは注意としてガイドラインに記述されるべきと思います。
 
なお最近はストロングクラスではなく一段強度の高いベリーストロングクラスの
ステロイド外用剤の使用が多くなっている印象があります。
更に副腎抑制が多くの人に起こり始めている危険性が心配です。
 
 
 
第2段落について
 
1.ステロイドの種類も使用方法も区別せず、ステロイド一般として
説明したため、全てのステロイド使用者に恐怖と不安を与えた
2.「療法」という言葉を使い、ステロイド不使用で疾患が治るかのごとき
期待を抱かせている
3.ステロイドの危険を把握し、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインに沿って
治療している医師と患者さんに不安と妨害を与える
4.番組により健康被害をもたらす可能性が高い
 
と批判しています。
 
 
1.について
現実に使われた薬物は、個別の商品名を挙げてはいないが
総称としてはステロイドであり、その使用によって皮フが悪化したこと、
そしてその中止によって皮疹が改善したことは明白です。
だから、ステロイド治療中の患者や医師に対して、ステロイド使用について
慎重であるべきことを示すとともに、このような皮疹が生じても
きちんと治療すれば良くなる希望を持てることを示したものです。
 
2.について
 
ステロイドを使わない方法が効果のないものであれば、
たとえ「療法」という言葉を使ったとしても良くならないでしょう。
しかし現実には良くなりました。その理由は「療法」という名前を
付けたからではなくて、実際に効くから良くなったと考えるべきでしょう。
だから、ステロイドを使わないことで疾患が治ることがあるという
期待を抱かせることを示した有益な放送と言うべきでしょう。
 
3.について
 
放映された患者さんはアトピー性皮膚炎ではなく酒さ様皮膚炎であり、
アトピー性皮膚炎を治療している医師と患者とは関係のない内容です。
にもかかわらず、わざわざアトピー性皮膚炎診療ガイドラインについて
記述したのは、脱ステロイドという言葉がアトピー性皮膚炎の治療に
大きく影響してきていることを学会が恐れていることを示しているのでしょう。
 
4.について
 
番組は、ステロイドを使用して悪化した皮膚でステロイドを止めると
一時的には酷くなったがその後で良くなったことを示しただけです。
酒さ様皮膚炎の場合、学会のするべきことは、健康被害をもたらす可能性を
心配することではなくて、できるだけ強い症状が出ないように
ステロイドを中止する方法をえることです。
 
 
 
第3段落について
 
「脱ステロイド」と呼ばれる不適切な治療の横行を防ぐために、
日本皮膚科学会では「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を策定し
標準治療の普及に努めてきたのに、ステロイド外用薬に関する誤解や
誤った内容の報道をマスメディアが再びすることは医療に混乱をもたらし、
看過することができないので抗議する、と日本皮膚科学会などが言っています。
 
あれ、ここでも話をアトピー性皮膚炎にすり替えていますね。
 
繰り返しますが、報道は酒さ様皮膚炎がステロイド外用で発症し
脱ステロイドで良くなった、という内容です。
 
アトピー性皮膚炎であっても、
何十年とステロイドを使用した後で
脱ステロイドをして皮疹がなくなり、
快適な生活をしている方がおられるのは
多くのSNSで分かることですし、少ない文献であっても
脱ステロイドで良くなられた方の報告はあるのに、
これらを無視して
なぜ脱ステロイドを全面的に否定するのでしょうか。
理解に苦しみます。
 
 
 
抗議文の内容の全般的評価
 
1.放送内容の一部の不正確さを強調し、放送内容すべてが
非科学的であるかのように見せかけようとしています
 
2.放送された患者さんの病気は酒さ様皮膚炎であることを明らかにせず、
あたかもアトピー性皮膚炎の患者のステロイド離脱であるかのように話を進め、
一般の皮膚科医に受入れられやすいこれまで通りの「脱ステロイド」全否定を行っています。
このようなすり替えにより、酒さ様皮膚炎の発生原因がステロイド外用であることと、
その治療法であるステロイド外用の中止(脱ステロイド)を隠しています
 
3.今回の報道症例が酒さ様皮膚炎であり、この疾患に対する標準的な治療である
ステロイドの中止(脱ステロイド)で皮疹が非常に良くなったことを
報道は事実として示しました。
 
皮膚科学会にとって、皮疹が脱ステロイドで良くなることはあってはならないこと
のようです。
科学者は事実を元に評価をしなければなりません
脱ステロイドで皮疹が良くなった事実を認めないなら、その行動は
科学者の態度とはいえません。
脱ステロイドという言葉で表現される治療が成功すると、多くの皮膚科患者や医師は
アトピー性皮膚炎治療での脱ステロイドの評価を考えます。
 
 
イギリス皮膚科学会英国湿疹協会
2021年の共同声明中でステロイド離脱が
ステロイド使用中の難治性アトピー性皮膚炎への
一つの治療として認められました
 
 
ウエブ情報では、世界中の多くの
アトピー性皮膚炎患者が脱ステロイド・脱保湿療法で
良くなっていることが示されています。
 
 
このように事態が進むと、ステロイドを使用しない治療方法が公表され
公認されるようにならなければならないと思います。
 
少なくとも酒さ様皮膚炎についてはステロイド離脱後の治療方法を
ガイドラインは示すべきですが、「皮膚科専門医に紹介」することだけしか記されていません。
もし治療方法が記述されれば、酒さ様皮膚炎患者への対応が安心してできます。
 
酒さ様皮膚炎はステロイド依存性皮膚症の顔面版ですから、
ステロイド依存性皮膚症を伴ったアトピー性皮膚炎患者に対しても有益なものとなるでしょう。
更に、自分の子どもにステロイドを使わせたくない親が虐待しているとして
児童相談所に子どもが取り上げられる心配も無く、近くの医療機関で安心して
非・脱ステロイド治療を行ってもらえるようになるでしょう。
そうなれば、相談できる施設がなくて困り果ててやつれた母親と
脱水状態の危険な赤ちゃんをみることもなくなるでしょう。
 
 
酒さ様皮膚炎の原因と治療の文献
 
酒さ様皮膚炎の原因と治療に関していくつかの皮膚科の教科書をお示ししておきます。
 
#TEXT皮膚科学  伊藤雅章、小川秀興・新村真人編集、南山堂、東京、1998年、p240
酒皶様皮膚炎:ステロイド外用薬長期連用の副作用—難治性。
 
#皮膚科学  大塚藤男著・編、第9版、金芳堂、京都、2011年、p704
酒皶様皮膚炎:ステロイド外用薬による局所副作用の一型。
—治療のためにステロイドの外用を中止するとリバウンドが激しいが、
これを乗り切る必要がある。
 
#皮膚科レジデントマニュアル  菅原弘二、鶴田大輔編、医学書院、東京、2018年、p285
酒皶様皮膚炎:ステロイド外用を顔面に長期使用で生じる。
—ステロイド外用薬を中止することが基本であるが、リバウンド現象に注意を払い、
慎重に行う。
 
 
このように、酒さ様皮膚炎の原因はステロイドの外用であり、
治療はステロイドの中止です。
 
2018ガイドライン(2459頁)には酒さ様皮膚炎について次の記述があります。
 
酒さ様皮膚炎は、主として成人の顔面にステロイド外用薬を長期間使用した場合に、
紅斑毛細血管拡張毛包一致性丘疹膿疱などがみられる。
ステロイド外用薬の副作用で、この状態でステロイド外用薬を急に中止すると
紅斑や浮腫が悪化することがある。
これらの症状がみられる場合には速やかに皮膚科専門医に紹介すべきである。」
 
(筆者の注:ところが、皮膚科専門医がどのような治療を行えば良いかについては記載はありません。)
 
皮膚科学会などの抗議文は以下で見ることができます。
 
 
                        ( 阪南中央病院・皮膚科医師 佐藤健二先生のSNSの投稿より)
 
 
   *********************
 
 
 
いかがでしたでしょうか?
 
 ’ひどい肌荒れ’(実際には、ステロイドが原因で顔に起こる ’酒さ様皮膚炎’)
 
「脱ステ・脱保湿でキレイに治った!」・・・という内容を放映したテレビ局に対し
 
医師会などが
 
’アトピー性皮膚炎’ は
 
(自分たちの作った😶)ガイドラインに沿って診療を行っているので、
 
(ステロイドなしで’アトピー性皮膚炎’が治るかのような内容は)
 
医師と患者さんに不必要な不安と妨害を与える内容だ。」
 
・・・という趣旨の抗議をしたのは、
 
普通に文章理解力のある方からは、
 
「主語が・・・違いますけど?」
 
・・・と言いたくなるような抗議でした😅。
 
 
 
また、酒さ様皮膚炎は、
 
ステロイドの長期連用で顔が赤くなるステロイドの副作用ですが、
 
ステロイドの副作用が顔にだけ起こる?というのも、
 
なんとも凡人には理解不能ですし、
 
その治療は、(医師会の作ったガイドライン😶でも普通の皮膚科の教科書でも)
 
ステロイドを中止すること’ であるのに対し、
 
体に起きたステロイドの副作用は、ステロイドの副作用とは呼ばず、
 
ステロイドを中止することは治療ではない・・・。
 
 
 
学生時代、国語はいつも学年一番を誇りにしていた私ですが~、
 
ちょっと読解力の複雑さに自信を失っております。(;’∀’)
 
 
 
佐藤先生のお話しには、
 
「ですよね~~~?」
 
と、思われた方も多いかと思います。
 
放送内容の一部の不正確さを強調し、
 
放送内容すべてが非科学的であるかのようにする論法・・・
 
(ん~~~~?なんで、そこまで必死?)
 
と・・・潜んでいる本当の理由を想像しながら、
 
眉をひそめた方々もたくさんいらっしゃったようです。
 
 
 
 
ステロイドなしでもよくなる
 
ステロイドなしで、かえって使っていた頃よりよくなった患者が莫大な数いる
 
ステロイドを使わない治療を選びたい患者たちがいる
 
・・・という事実を、日本はどこまで隠しきれるのか・・・そこにも興味があります。
 
 
 
一日も早く、治療の選択が出来る世の中になりますように・・・。
 
 
今日も素晴らしい一日を!
 
 
 
 
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